物(もの)みなは歳日(としひ)と共に亡び行く。
ひとり來てさまよへば
流れも速き廣瀬川。
何にせかれて止(とど)むべき
憂ひのみ永く殘りて
わが情熱の日も暮れ行けり。
少年の日は物に感ぜしや
われは波宜(はぎ)亭の二階によりて
悲しき情感の思ひに沈めり
艶めく情熱に惱みたり
わが草木(さうもく)とならん日に――父の墓に詣でて――
たれかは知らむ敗亡の
歴史を墓に刻むべき。
われは飢ゑたりとこしへに
過失を人も許せかし。
過失を父も許せかし。
たちまち遠景を汽車の走りて
我れの心境は動騷せり。
われこの新道の交路に立てど
さびしき四方(よも)の地平をきはめず。
暗鬱なる日かな
天日(てんじつ)家竝の軒に低くして
林の雜木まばらに伐られたり。
兵士の行軍の後に捨てられ――昔の小出新道にて――
破れたる軍靴(ぐんくわ)のごとくに
汝は路傍に渇けるかな。
天日(てんじつ)の下に口をあけ
汝の過去を哄笑せよ。
汝の歴史を捨て去れかし。
此所に長き橋の架したるは
かのさびしき惣社の村より
直として前橋の町に通ずるらん。
監獄裏の林に入れば
囀鳥高きにしば鳴けり
物みなは歳日(としひ)と共に亡び行く――。――廣瀬河畔を逍遙しつつ――
ひとり來りてさまよへば
流れも速き廣瀬川
何にせかれて止(とど)むべき。
●表記について
・本文中の※は、底本では次のような漢字(JIS外字)が使われている。
車輪の※り、 鏡のうしろへ※つてみても、 如何にして※り逢ふかも解らない 偶然の※合のみを祈りながら、 |
第4水準2-12-11 |