ひどい家だ、ひどい嵐だ、崖の上にのつかってゐるそのボロボロの家は、難破船のやうに傾いてゐる。――今顛覆するか、もう今か、と思ひながら、ゴーと唸って雨戸にぶつっかる砂塵の音に寝そびれながら、彼は少し愉しいのだから変だ。彼は夢をみてゐるのであった。たったこの間まで目抜きの場所へ店を構へて、彼は山と積んだ負債を切抜けてゐたのだった。明日破産するか、来月は駄目かと思ひながら、彼は半生を頑張り通した。彼は号外が好きだった。何か素晴らしい事件が一枚の紙片から発生しはすまいかと、何時も待ち構へた。毎朝目が覚めると、世の中はどうなるのかと不安に脅えた。
しかし今彼は破産してしまって、郊外の