その時
その詩は、
早く蘭窓に向って
刺して
暗に
また連城の刺繍の巧みなことをほめて、
繍線挑 し来たりて生くるを写すに似たり
幅中の花鳥自ら天成
当年錦を織るは長技に非 ず
倖 に廻文を把 りて聖明を感ず
としてあった。連城はその詩を見て喜んで、父に向ってほめた。孝廉は喬は貧乏だからといって相手にしなかった。連城は人に逢うと喬のことをほめ、そのうえ幅中の花鳥自ら天成
当年錦を織るは長技に
「連城こそ自分の
喬は連城のことばかり考えて食にうえた人のようであった。間もなく連城は塩商の子の王化成という者と
それから間もなく連城は胸の病気になって、それがこじれて
「馬鹿

使が返って婿のいったことを伝えた。孝廉は怒って人に話していった。
「肉を割いてくれる者があれば、女を婿にやろう。」
喬はそれを聞くと孝廉の家へいって、自分で白刃を出して、胸の肉をそいで行脚の僧に渡した。血が上衣から袴を濡らした。僧は薬とその肉を調合して三つの丸薬を作って、日に一回ずつ飲ましたが、三日してその丸薬がなくなると、連城の病気は物をなくしたように
「ひどく御恩にあずかったから、お礼をしたい。」
といって、そこで約束に背くようになった
「僕が体をおしまなかったのは、知己に報いようとしたからです。肉を売るのじゃないです。」
といって、止める袖をふり払って帰った。連城はそれを聞いてたえられなかった。で、
「あなたのような才能をお持ちになった方は、いつまでもこうしていらっしゃらないでしょうから、美しい方にはお困りにならないでしょう。私は夢見が悪いから、三年するときっと死にます。こんな死ぬるような者は人と争わないでもよろしゅうございましょう。」
といわした。喬は媼にいった。
「士は己を知る者のために死す。色のためじゃないのです。どうも連城さんは、ほんとうに私を知ってくれないです。ほんとうに私を知っててくれるなら、結婚しなくてもかまわないです。」
媼はそこで連城にかわって、たしかに喬を思っているということをいった。喬はいった。
「ほんとにそうなら、今度逢った時、笑ってもらいたいです。そうしてくれるなら僕は死んでも
媼は帰っていった。それから数日してのことであった。たまたま喬が外出していると、連城が
「連城はほんとに自分を知ってくれている。」
ある時孝廉の家へ王が来て結婚の期日のことを相談した。連城はその時から前の病気が再発して、二、三ヵ月して死んでしまった。喬は孝廉の家へいって、連城を
喬は自分でもう死んだことを知ったが悲しいことはなかった。村を出て歩きながらも一度連城を見たいと思った。遥かに目をやると西北の方に一つの道があって、たくさんの人が蟻のようにいっているのが見えた。そこで喬はその方へいってその人達の中に交って歩いた。
不意に一つの官署へ来た。喬はその中へ入っていった。そこに
「君はどうしてここへ来たのだ。」
そこで顧は喬の手を
「僕はここで文書をつかさどってるが、ひどく信用されているのだ。もし僕がしていいことがあるなら、なんでもするよ。」
喬は連城のことを訊いた。顧はそこで喬を
「どうしてここへいらしたのです。」
といった。喬はいった。
「あなたが死んだのに、僕がどうして生きていれられるのです。」
連城は泣いた。
「すみません。私を
喬は顧の方を見ていった。
「君は仕事があるだろうからいってくれたまえ。僕は死ぬるのが楽しみで、生きたいとは思わないから。ただ君に頼みたいのは、連城が来世にどこへ生れるということと、僕もゆくゆくそこへいけるようにしてもらいたいことだけだ。」
顧は承知していってしまった。白衣を着ている女は、連城に喬のことを訊いた。
「この方は、どうした方です。」
そこで連城は喬のことを精しく話した。女はそれを聞いていかにも悲しくてたまらないという
「この方は私と同姓で、
喬は女の方をきっと見たが、そのさまがいかにもいたわしかったから、そこで
「僕が君のために、いいようにして来た。それから連城の方も君と一緒に魂を返すことにしたのだが、どうだね。」
喬と連城とは喜んで、顧を拝んで別れようとした。賓娘は大声をあげて泣いた。
「姉さんがいって、私はどこへいくのです。どうか私もたすけてください。私は姉さんの侍女になるのですから。」
連城は女がいたましかったが、どうすることもできなかった。連城はそこで喬に相談をした。喬はまた顧に頼んだ。顧はとてもできないときっぱりいいきった。喬は強いてそれを頼んだ。そこで顧は、
「それじゃ、せんぎをしてみよう。」
といっていってしまったが、食事する位の時間をおいて返って来て、手をふっていった。
「これは、もう、どうにもしょうがないのだ。」
賓娘はそれを聞くとあまえるように泣いて、連城の
「どうか、賓娘を
賓娘はそこで喜んで、喬と連城について出た。喬は道が遠くて賓娘に
「私は、あなたについてゆきます。帰りたくはないのです。」
喬はいった。
「君はばかだよ。帰らなくてどうして生きかえることができる。僕が
ちょうど二人の老婆が地獄の文書を持って長沙にゆこうとしていた。喬はそれに賓娘を頼んだ。賓娘は泣いて別れていった。喬と連城は二人で帰りかけたが、連城の足が遅くて、すこしいくとすぐ休んだ。およそ十回あまりも休んだところで、やっと村の入口の門が見えた。連城はいった。
「生きかえって後に、また約束をやぶるようなことがあってはいけないです。どうか私のむくろを取って来てください。私はあなたの家で生きかえります。私はすこしも
喬はそれをもっともなことだと思ったので、一結に自分の家へ帰っていったが、連城は心配して歩くことができないふうがあった。喬は足をとめて待ち待ちした。連城はいった。
「私はここへ来るまでに、手足がふらふらして、すがる所がないようでした。私は自分の望みがとげられないじゃないかと思うのです。このうえにもよく考えておこうじゃありませんか。そうしないと生きかえって後に、自由になれないのですから。」
そこで二人は
「あなたは私が憎いのですか。」
喬は驚いてその
「ことが
喬は喜んで
「諺にも醜婦総て
といって、そこで喬を促して入っていかした。そして喬はわずかに死骸を置いてある室へ入るなり、からりと生きかえった。家の者は驚いて水を飲ました。喬はそこで人をやって孝廉に来てもらって、連城の死骸をもらいたいといって、
「私がきっと生きかえらします。」
といった。孝廉はその言葉に従って、連城の死骸を
「私は、もう、この身を喬さんにまかせてあるのです。もう家へ帰っていくわけはありません。もし、それを変えるなら私は死んでしまいます。」
孝廉は帰って
連城は王の家へいったが、
連城は起きてから、いつも賓娘のことを
「門口へ車が来ました。」
といった。喬夫婦が出て見ると、それは賓娘で、もう庭の中へ入って来ていた。三人は相見て悲喜こもごも至るというありさまであった。それは賓娘の父の史太守が自分で女を送って来たところであった。喬は大守を室に通した。大守は、
「うちの子供は、君によって生きかえったから、どうしても他へいかないというので、その言葉に従って
といった。喬は礼をいった。そこへ孝廉がまた来て、親類としてのあいさつをした。喬は名は