ものごころ
萩原朔太郎
ものごころ覺えそめたるわが性のうすらあかりは
春の夜の雪のごとくにしめやかにして
ふきあげのほとりに咲けるなでしこの花にも似たり
ああこのうるほひをもておん身の髮を濡らすべきか
しからずはその手をこそ
ふくらかなる白きお指にくちをあて
やみがたき情愁の海にひたりつくさむ
おん身よ
なになればかくもわが肩によりすがり
いつもいつもくさばなの吐息もてささやき給ふや
このごろは涙しげく流れ出でて
ひるもゆふべもやむことなし
ああ友よ
かくもいたいけなる我がものごころのもよほしに
秋もまぢかのひとむら時雨
さもさつさつとおとし來れり
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