哀歌

森川義信




枝を折るのは誰だらう
あはただしく飛びたつ影は何であらう
ふかい吃水のほとりから
そこここの傷痕から
ながれるものは流れつくし
かつてあつたままに暮れていつた
いちどゆけばもはや帰れない
歩みゆくものの遅速に
思ひをひそめ
想ひのかぎりをこめ
いくたびこの頂に立つたことか

しづかな推移に照り翳り
風影はどこまで暮れてゆくのか
みづから哀しみを捉へて佇むと
ふと
こころの佗しい断面から
わたしのなかから
風がおこり
その風は
何を貫いて吹くのであらう





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
入力:坂本真一
校正:フクポー
2017年6月25日作成
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