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TA………悦子
FAUSTA………幸子
BEATA………福子
悦。今、春と夏とのさかひ、このひと時……
幸。
今宵と
明日とのさかひめに、ひとつ
介まるこの時よ……
福。眠れ、
眠入らで、日のまたも
生るる前に……
悦。
夜無き
夜に……
幸。影みせぬ
百鳥の
羽掻絶間なく、
明けぬればその歌をきかむ……
悦。……若葉は
戰ぎ、
一聲ほのかに、さゞめき低く、
物音して……
幸。
瀧の
音は遠し、風は吹きすぐ。
悦。春過ぎて、
福。あすは、それ、
眞夏の
初。
幸。日の
光無量。
悦。
地の
果も
無量。
幸。日は永し、
福。空清し、
照日妙なり。
悦。さて、いまだ
夜は
明けず、
幸。しばし、まだ……
悦。……
更闌けて
曉方近く……
福。今こそは、夏の
來ぬ
間の
終の
夜。
幸。あはれ深き、こよひかな。
悦。見よ、
絶間無きかの
相圖を
空に
聳やぐあの松林……
幸。
鬱として
嚴そかに立てる影かな。
悦。歌へ、語れ、呼ばはれ、鳥よ、
容鳥よ。
福。
噫、われら、
正しくも受く
可き
福を取らずして、
空しく唯に過ぐべきか、
またと無き夜をあだにして。
幸。この
一刻にすべては定まらむ。
悦。一年のいとも貴き
一語なり。
憧れて、語り出でたき地の言葉。
幸。また
空の言葉。
胸もとどろなる空、すべてを知つて時を待つ空の言葉か。
悦。
曙と夕暮とけぢめなき時
幸。夢見る
晝の胸の上
眠りてあれば、やうやうに、記憶の綱は解かれ來て、
福。
悔も
望も消えうせつ、
悦。殘るはなに。
福。さいはひぞ。
悦。われは聞く、
唯微風の音なひ
咽び泣く水の
聲、
幸。……わが胸の音もきこえず……
悦。
忽ち
流星あり、長く光を
曳いて、
終に飛散すれど、
福。おん身が聞きえぬならむ。
悦。
天の戸はしばし開けて、
幸。
唯夜を示すのみ。
福。おん身に見えぬならむ。
幸。おん身も何か語り給へ、ここなる
一人とわれとに、吾等
二人に。
福。
粧ひ
飾りたるわれら
三人……
悦。
腕も胸もあらはに……
幸。腰うちかけて……
福。
空を仰ぎて……
幸。ともに皆、顏
見合はさず……
悦。……腰うちかけて、身は
半、
仰向なれば、
式の袍の裳裾には、
金を飾れる足の指。
幸。わが愛する人は……
悦。……あくる朝、わが
夫となる人、
いつまでも愛し給ふか。
幸。わが愛する人、
旅に出でゝ遠くある人、
あすにならば歸り給ふか。
福。わが愛する人は、
世にあらず、いつの朝もわれに返さじ。
悦。さては、はや世に無き君か。
幸。いつの朝もかの君をおん身に返さじ、
福。いつまでも、いつまでも、君は忘れじ。
悦。しかも、おん身はさきのほど、世の
福を説き給ひぬ。
福。滅ぶるものは身にとりてすべて
空なり。
幸。すべての
空となる時に、殘るはなにぞ。
福。
晝にあらず、
夜にあらざるこの
一刻。
幸。
始ある物は
終あり。
福。
唯ひとつ終なきもの、
春と夏とのさかひ、今ひと時。