ありとあらゆるわが思
ダンテ・アリギエリ Dante Alighieri
上田敏訳
ありとあらゆるわが思、「愛」と語りて弛なく
その種々の語の數いと繁きひといろは、
勢猛にわれをしも力の下に壓さむとし、
またひといろは勢を誇り語りて、らうがはし。
あるは望を抱きつゝ、悦われにあらしめつ、
あるは頻にわれをしも憂ひ悲しましむれども、
「憐」仰ぐひとことは、すべての思皆おなじ、
心の底に潛みたる「恐」によりてふるひつゝ。
さてはいづれの思をば、頭の心と定むべき。
語り出むと思へども、語らふべきを吾知らず。
ただ茫然と、迷はしき「愛」の衢にひとり立つ。
かくて思のいづれにも適はむ事を求むれば、
他に詮術のあらばこそ、口惜しけれど吾は唯
身のまもりにと呼はらむ、かたきの姫の「憐」を。
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